『その色の意味』
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赤。嫌いな色。
孤独の色。
涙とさよならの色。
私の瞳の色。
「前に、ナナと二人でこんな銀杏並木を歩いたことがあるわ」
「へぇ」
昨日までの長雨が嘘のように、爽やかに晴れ渡った秋の日。
昼食はここで食べよう、と入った木陰に涼やかな風が吹く。ちょっとお洒落なデートにしてみる? と奮発して買った紅茶の、花のような甘い香りが鼻腔をくすぐって抜けていく。……まぁ、冒険者時代に使い込まれた傷だらけの水筒から注がれる時点でお洒落などという言葉からは程遠い飲み物になってしまっているのだけれど。
「真っ赤な紅葉が綺麗だって話題の場所があったんだけど。私、あの頃はまだ赤色が苦手だったから、きっと気を遣ってくれたのね」
もう、十年以上も昔の話。私の目は当然、今も昔も、どんなに願ったところで並木を彩る黄金色を映すことは叶わない。赤以外の色は全て、生まれ育った故郷の街に置いてきてしまったから。
それでも、モノクロの世界の中で彼女が拾って持たせてくれた落ち葉のかたち、カサカサとした感触、私を包み込むような柔らかく弾んだ声。目を閉じれば、つい昨日の事のようにはっきりと思い出せる。
「今は苦手じゃないの? 初耳! いつから? なんで!?」
「……あなた、人がせっかく……。はぁ」
矢継ぎ早に質問を重ねる目の前の人物は、いつだって感傷に浸る暇など与えてはくれない。もういい大人なのだからそろそろ落ち着いて欲しいと、反射的に溜息をついて非難の眼差しを向けてしまった。
「……。まぁいいわ」
最近は、それも悪くないなと思えるようになってしまったから、完敗。
「……分からないの?理由」
一呼吸置いてから私が尋ねると、彼は心底驚いた顔をした。
「えっ? 俺が分かるの? え、え、えーと、えーと……」
「分からないなら、教えない」
意地悪く微笑んでから、ぷいと顔を背ける。
「えぇ!? 気になるよ!」
「秘密よ。だってあなた、すぐ調子に乗るもの」
この話はおしまい、とばかりに立ち上がり、スカートの上に落ちたパンくずをはらう。彼はしばらく不服そうな顔をしていたが、これ以上しつこく聞いても答えを得られないと察したのか渋々口を閉じた。
「まぁ、そのうち分かればいいや。じゃ、行こっか」
そう言うと勢い良く私の手を取って歩き出す。以前よりぐんと背が伸びた彼とは気が付くと歩幅が合わなくなってしまうけれど、こうして手を繋いでいれば問題ない。
この先また季節が巡り、指先がかじかむようになったら、人より少しだけ高い彼の体温で暖をとらせてもらおう。髪を梳く風と銀杏の葉擦れの音の中で、そんなことを考えた。
赤。今は少しだけ好きな色。
繋がりの色。
始まりと陽だまりの色。
愛しい背中でふわりと揺れる、羽根の色。
***
了